チューニングと言えば管弦楽の演奏会で、コンサートマスターがオーボエの音に合わせて、それに他の楽器がだんだんと加わっていく風景を思い出す人が多いでしょう。
管弦楽ではチューニングの基準となる音にA(エー)を用いています。
ところが吹奏楽のチューニングの音は半音上のBb(ビーフラット)を用いてチューニングをします。
これはなぜなんでしょうか?たった半音の違いですが、どうしてオーケストラと吹奏楽では違いがあるのでしょうか?
今回はこのチューニングの音の違いはなぜかということと、チューニングの音だけ合わせたので演奏が上手くいくのかということについて考えてみたいと思います。
吹奏楽のチューニングの音はなぜBb なのか?
吹奏楽のチューニングの音はなぜBbなのでしょうか?誰でも一度は疑問に思うことがあるでしょう。
今回は管弦楽のチューニングの音と比較しながら謎を解き明かしていきたいと思います。
管弦楽のチューニングの音がAになった理由は
まずは管弦楽のチューニングの音について考えてみましょう。
管弦楽は弦楽5重奏の拡大版にコントラバスや管楽器、打楽器などが足された編成になっています。
時代別で管弦楽の編成を見れば、古い時代の曲ほど管楽器が少ないことからも、それがわかりますよね。
なのでチューニングも弦楽器が基準で、チューニングの音がAなのは全ての弦楽器に、開放でAの音が鳴るA線があるからという説が有力です。
バイオリン (低い方から)G D A E
ビオラ (低い方から)C G D A
チェロ (低い方から)C G D A
コントラバス(低い方から)E A D G
このようにどの楽器にも開放でAが鳴るA線がありますね。
G線とD線も共通してありますが、音域が低過ぎたり高すぎるため、最もよく使う真ん中の音域のA線を基準としたのではないかと考えられます。
また、このAの音(実音で「ラ」の音)をチューニングに使う基準の音としてA(英:エー、独:アー)と決めたのでしょう。
管楽器はこのAの音でチューニングするため、最初はチューニングが難しいですが、何回もやっているうちに慣れてしまうものです。
ちなみに基準音はオーボエが出しますが、これにも諸説あり、倍音が少なく音の高さがわかりやすいとか、ピッチが安定しているからとか、音を長く伸ばすことができるからとか、オーケストラ(管弦楽団)の真ん中にいるからなど様々な理由があります。
管弦楽のチューニングの音がなぜA(エー)なのかというのはわかりましたね。
英語音名でもドイツ語音名でもA(英:エー 独:アー)なのでわかりやすいですよね。
吹奏楽のチューニングの音はなぜBb?
さてそれでは吹奏楽のチューニングの音はなぜBb(ドイツ語音名でB:ベー)なのでしょうか?
それは管弦楽と同様に吹奏楽の楽器編成に関係があります。
吹奏楽の編成にある楽器の調性(それぞれの楽器のドが何の音になるか)を見てみましょう。
ピッコロ C
フルート C
オーボエ C
ファゴット C
Ebクラリネット Eb
クラリネット Bb
ソプラノサックス Bb
アルトサックス Eb
テナーサックス Bb
バリトンサックス Eb
コントラバス (C)
トランペット Bb
ホルン F
トロンボーン Bb
ユーフォニアム Bb
チューバ Bb
こうしてみると吹奏楽では調性がBbの楽器が多いのがわかりますよね。(楽器ごとの人数も考えるとかなりの人数になりますね。)
特に金管楽器についてはホルン以外Bb調です。
このようにBb調の楽器が多いことが、Bbが吹奏楽のチューニングの音として採用されるようになった理由なのではないかと思います。
Bbをチューニングの音にするとBbはBb調楽器の「ド」の音になります。
特に金管楽器では弦楽器の開放弦と同様に、開放の音は基本的に後からずらせないので、音合わせに都合が良いのです。
また、吹奏楽ではクラリネットが管弦楽での弦楽器の役割をしているから、チューニングの音がクラリネットの「ド」(Bb)になったということもあるでしょう。
Bb調以外の楽器は自分の楽器の「ド」以外の音で合わせなければいけないのでチューニングが難しそうですが、管弦楽の管楽器と同様に慣れればそんなに難しいものではなくなります。
基準音は特にどの楽器が出すかは決まっていません。オーボエが居る編成ならばオーボエが出してもいいですし、クラリネットやアルトサックスが出してもいいと思います。
状況に応じて、基準音を正確に出せる人が担当するようにします。
吹奏楽のチューニングの音がなぜBb(ドイツ語音名B:ベー)だということがわかりましたね。
要するにBb調の楽器の人数が多いのでBbがチューニングの音になっているのです。
音域もオーケストラのチューニングの音Aと半音違いですし、合わせやすい音なんですね。
ちなみに学校の吹奏楽部ではチューニングのBbだけをドイツ語音名で「チューニングのベー」というところがありますので覚えておくと良いでしょう。
吹奏楽のチューニングの音は、それだけ合わせればいいの?
プロの吹奏楽団のコンサートを見に行ったことがある人はわかると思いますが、コンサートマスター(最近はアルトサックスが多い)が基準音のBbを吹いてそれに木管楽器、金管楽器の順でチューニングをしますね。
私たち吹奏楽部もこのように、チューニングは合奏前の1回だけBbを合わせるのでいいのでしょうか?
答えは「NO」です。
実はステージ上でのチューニングは「これから演奏会が始まるよ」という「儀式的」なものなのです。(チューニングの最終確認という意味合いもありますが…)
日頃から最前線で活躍されているプロの先生方の吹奏楽団であればステージ上の1回のチューニングで音が合うかもしれませんが、吹奏楽部の皆さんはそうはいきません。
なぜなら吹奏楽部の管楽器はではチューニングのBbが合っていたとしても他の音が合っているとは限らないからです。
管楽器はある程度音程を作ってくれますが、正確な音程を作るのは演奏する人にまかされています。
よく言えばひとつの音にも幅があります。
なので、まずは演奏する人それぞれが正確な音感を持っている必要があります。
ではどのようにして演奏するそれぞれの人が正確な音感を持つことができるのでしょうか?
ソルフェージュの大切さ
音を合わせるにはソルフェージュの練習が大事です。
ソルフェージュって何?という方もいらっしゃると思いますのでここで紹介しておきます。
ソルフェージュとはいろんな意味がありますが、ここでは楽譜に書かれた音を正確に楽器を使わずに歌うことだと理解してください。(音楽大学の先生に怒られそうですが^ ^)
楽譜に書かれている音を正確に楽器を使わずに歌うだけでも難しいですね。
ですので、楽譜のかわりにピアノやハーモニーディレクターを使って音を出して、それに合わせて歌うことだと思ってください。
このような練習をすることで、音程やピッチを楽器まかせにするのではなく、演奏する一人一人がコントロールできるようになります。
ソルフェージュの練習はひとりひとりでやるのはとても時間がかかりますし、楽器での合奏にも役立てたいと思いますので、吹奏楽部全員でやるようにします。(連帯感を持たせるためにもできれば打楽器のメンバーも一緒にやりましょう。)
参考までにどのようにしてソルフェージュの練習をやるのか、日ごろ私がやっているパターンを紹介します。
楽器を使わずに練習する吹奏楽部のためのソルフェージュ
(この練習をやる前に、個人でのウォーミングアップとチューニングを済ませておいてください。)
まずピアノ(A=442で調律されていることを確認しておく)やハーモニーディレクターをつかってチューニングのBbを声(発音は「あ」)で合わせます。
最初はひとつの音になっていなくても、おおよそ合っていれば大丈夫です。
ここで正確に合わせていると時間が無くなりますし、毎日練習を積み重ねていけば合うようになるものなのでおおよそでいいのです。
チューニングのBbでガイド音を出し、それに続いて声で歌うようにします。
かなり慣れるまでは歌の部分もガイド音を出してやったほうがいいでしょう。
音律は特に理由がなければ平均律で、コンサートピッチA=442ヘルツでやります。
楽譜にするとこんな感じになります。
テンポは遅くなり過ぎないようにした方がいいです。(♩=110くらい)
最初から完璧を求めずに大きく豊かな声で歌うように心がけましょう。
大きくずれたときにはもう一度同じパターンをやり直します。
ここで大事なポイントがあります。
音が合わないからとか、声が小さいからといって絶対に怒ってはいけません。
怒られると委縮して声が小さくなってしまい逆効果になります。
なぜこのような練習をするのかを説明することも重要です。吹奏楽部なのになぜ合唱部みたいな練習をするのか生徒たちは疑問に思っているはずです。
そして指導者の先生も生徒と一緒に歌って見本を見せることです。そうすることでお互いの信頼関係ができますし、指導者の先生自身の音感も高めることができます。
それでは最初のBbスタートのパターンから練習していきましょう。
Bbスタート(チューニングのBbから始めます)
①(HD)BbーAーBb、(声)BbーAーBb
②(HD)BbーAbーBb、(声)BbーAbーBb
③(HD)BbーBーBb、(声)BbーBーBb
④(HD)BbーCーBb、(声)BbーCーBb
Fスタート(チューニングのBbの一つ下のFから始めます)
まず、HDで基準音のFを出して声を合わせます。
①(HD)FーEーF、(声)FーEーF
②(HD)FーEbーF、(声)FーEbーF
③(HD)FーF#ーF、(声)FーF#ーF
④(HD)FーGーF、(声)FーGーF
Fスタート2段階
もう一度FをHDで鳴らして基準音をとります。
ここから2段階になるので難しくなります。
(2段階下降形)
①(HD) FーEーEーEb、(声)FーEーEーEb
②(HD) FーEーEーD、(声)FーEーEーD
③(HD)FーEbーEbーD、(声)FーEbーEbーD
④(HD)FーEbーEbーDb、(声)FーEbーEbーDb
(2段階上昇形)
⑤(HD)FーF#ーF#ーG、(声)FーF#ーF#ーG
⑥(HD)FーF#ーF#ーG#、(声)FーF#ーF#ーG#
⑦(HD)FーGーGーG#、(声)FーGーGーG#
⑧(HD)FーGーGーA、(声)FーGーGーA
2段階は難しいので1段階がおおよそできるようになってから取り入れてもいいと思います。
このほかにも工夫していろんなパターンを作って練習するのもいいと思います。
とにかくこのような練習を毎日やるようにしましょう。
練習を積むにしたがって、だんだんみんなの声が一つに合うようになっていくと思います。
楽器を使ったソルフェージュの練習
声でのソルフェージュの練習が終わったら、今度は楽器を使っ同じパターンを練習しましょう。楽器で正確な音を出すことが本来の目的です。
打楽器のメンバーにはスネアやバスドラムでリズムを刻んでもらったり、音程のあるシロフォンやグロッケンでソルフェージュのパターンを一緒に演奏してもらいましょう。
まずは声のときと同じで、楽器でスタートの基準音を合わせます。
<チューニングのBbスタート>、<まん中のFスタート>、に追加して<チューニングのBbスタートのオクターブ下>(パターンはチューニングのBbスタートと同じ)をやります。
どのパターンも声のときと同じように、ピアノかハーモニーディレクターでガイド音を出してやります。
楽譜はなくても慣れれば問題ないと思いますし、音の高さに神経を集中するためにも楽譜なしでやったほうがいいと思います。
日頃の基礎合奏に加えて、このソルフェージュの練習をだまされたと思って、1~2カ月もやってみてください。
その頃には楽器同士の音も見違えるように合うようになっているはずです。
私はこのような練習を積んでいくことで音を合わせることを、本来のチューニングだと思っています。
まとめ
今回は「吹奏楽のチューニングの音はなぜBb?合わせるのはそれだけでいいの?」というテーマでまとめてみました。
吹奏楽のチューニングの音はBb調の楽器が多いからBbでチューニングをするようになったということはお分かりいただけましたか?
また、管楽器の音は不安定なので、吹奏楽部の合奏練習ではチューニングのBbの音を合わせるだけでは不十分だということもご理解いただけたのではないでしょうか?
ここで紹介しました管楽器のためのソルフェージュの練習をぜひ活用していただいて、曲の練習中に音合わせのために合奏が止まる時間を節約し、音の合ったすばらしい演奏を体験されることを期待しています。
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